幸せになるために 75

Image013~00

携帯で撮影 2008.8.8

生まれるか?

 

8月8日朝、目が覚めると昨日の熱のせいか

頭がフラフラする

体温計で計ると37度2分・・・

まあ、許容範囲だ・・・

真由美ちゃん、昨晩はどうだったろうか?

と、思いながらまた夢の中へ・・・

 

ああ・・・

またこの夢だ・・・

僕は熱を出して寝込むと決まって同じ夢を見る・・・

僕は小さな赤ん坊で

父親が僕を抱いている

傍らに母が立ち、一緒に並んで歩いている

どうやら僕をどこかに連れていくようだ・・・

両親の前には

巨大なチューブがあり

目の前にチューブの切れ目がある

チューブの中は空気が流れていて

ゴウゴウと音を立てながらすごい勢いで流れている

父親は泣きながら僕をそのチューブの中へ

投げ入れる・・・

僕はチューブの中を揉まれながら流れていく・・・

 

汗をぐっしょりとかき

僕は飛び起きる・・・

息が荒い・・・

最悪の目覚めだ・・・

 

枕元の時計を見ると

もうすぐ12時だった・・・

結構寝ていたんだな・・・と思った

 

と、枕元の携帯が鳴る

真由美ちゃんからだった

慌てて携帯を取る

 

「もしもし・・・」

 

「あ、信也さん?具合どう?

まだ生まれなそうなんだけど

そろそろだって・・・

こっち来れそう?」

 

「あ・・・うん、今起きたところ

・・・うん、大丈夫、多分熱は下がった・・・」

 

「そう、良かった!

まあ、急がなくていいから病院に来てね」

 

「うん、わかった。頑張って!」

 

「うん、じゃあね」

 

携帯を切り

ベッドを抜け出し

服をかき集めて着る

忘れ物はないだろうか?

と、あたりを見回し

まあ、撮ることもないかな?

と思いつつカメラを持つ

 

車のカギを持ち駐車場へ向かう

本当は走り出したいのだが

ここで何かあっては一大事!と思い

慎重に行動する

 

車を出し、産婦人科へ向かう

ついさっきの嫌な夢の感触が残っている

大丈夫・・・無事生まれるさ・・・

そう言い聞かせながら車を産婦人科の近くの

駐車場へ入れた

 

おそるおそる産婦人科の中へ入っていくと

いつものように人気がない・・・

今日は休診日のようだ・・・

1階の受付には誰もおらず

2階に上がる階段を登る・・・

階段を登った先に分娩室があった

ここかな?と思って近づいた瞬間

中から

 

「ギャァァァアアア!!!!!

痛い~あぁぁあああああああ」

 

と悲鳴が聞こえてきた

ギョッとして真由美ちゃんか?と思って

中に入ろうとすると

看護婦さんが出てきて

 

「あ、山下さんですね。

真由美さん、まだ生まれないようなので

真由美さんの個室で待ってて下さい」

 

と言われた

 

「あの・・・今のは・・・」

 

「あ・・・別の妊婦さんですよ

今日は真由美さんの他に

2人生まれるんですよ」

 

「あ、そうなんですね

良かった・・・真由美ちゃんかと

思って心配しちゃいましたよ・・・」

 

「まだ、ちょっと時間ありますから

焦らずに待っててくださいね」

 

「わかりました・・・」

 

僕は、てっきり付きっ切りで

腰をさすったり

一緒にヒッヒッフーなんて

やるもんだと思っていたので

拍子抜けしてしまった

個室で待ってろということなので

個室に行くと

なかなかいい部屋だった

ふかふかとしたベッドに横たわり

目の前にあるTVの電源をつける

モニターには

北京オリンピックの開会式の様子が

映し出されていた

 

さっきの妊婦さんの絶叫を思い出し

真由美ちゃんもあんな風になるんだろうか・・・

と不安になりながら

気もそぞろにモニターを眺める・・・

 

ちょっと、ウトウトしていると

今度はTVで映画「海猿」をやっていた

ちょっと現実逃避して映画に見入る・・・

 

そろそろ、映画も終わりという頃に

なんだか喉が渇いてきた

 

周りを見ると冷蔵庫がある・・・

何か無いかと開けてみると

ポカリスエットが入っていた

蓋をあけごくごくと飲む

ちょっと落ち着いてきた

 

時計を見ると時間は16時を指していた

するとコンコンとノックされ

看護婦さんが顔を出す

 

「山下さん、そろそろですので

来てもらっていいですか?」

 

「あ、ハイ・・・」

 

とあわてて部屋を飛び出す

 

「真由美さん、頑張ってますよ

励ましてあげてくださいね」

 

「は、ハイ」

 

緊張しながら、先ほど絶叫が聞こえた部屋の

奥につれて行かれる・・・

 

そこには普通のベッドに横になった

真由美ちゃんがいた・・・

 

あれ?何かおかしい???

普通にTVで見るのだと

足を固定する金具があって

足を開いているのかと思ってたけど・・・

 

普通のベッドで足を開き

看護婦さんの体に足を踏ん張って

いきんでいる・・・

 

あれ?これでいいのか?

と思いつつ促されるまま

真由美ちゃんの頭の方に座った

 

「真由美ちゃん、来たよ!

もう少しだって!

頑張れ!」

 

「うん・・・

あああ・・・痛いぃいいい」

 

「ほら、頑張って!

お腹に力入れて!」

 

「うぅぅぅぅぅぁあぁあぁぁあ

ななぁ!!!頑張れぇ!

早く出てきてぇ」

 

真由美ちゃんは

これから生まれる子どもの名前を呼んでいた・・・

 

女の子だとわかってから

僕たちは名前をどうしようか?と悩んでいた

数限りなく出てきた名前は

何故かどれも画数が悪く

決めきれずにいた・・・

僕が冗談で

 

「子どもが出来てRX-7を手放したから

ななってどう?」

 

と言うと

 

「もう、バカじゃないの?

ふざけてつけないでよ!」

 

と怒っていたが

一応画数を調べてみる・・・

奈々・奈菜・七・七菜・・・・・・・

色々と調べてはみたが

どれもダメ・・・

うーん、奈々はないかぁ・・・・

と思っていた

 

「8月8日生まれになるんだとしたら

ハチとか!」

 

「犬か!」

 

・・・決まらなかった・・・

 

そんな中

真由美ちゃんは今

お腹の子に向かって

「なな!頑張って!」

と声をかけている

 

「なな」なのか・・・

 

何故かはわからないが

その時ひらがなで

「なな」という名前が呼ばれたような気がした・・・

 

そこから数分後・・・・

 

真由美ちゃんのお腹の中から

彼女は出てきた・・・

 

おぎゃあ!おぎゃあ!と泣いたかは覚えていないが

生まれたばかりなのに目が大きく

これが生まれたばかり?と驚くぐらい

はっきりとした顔立ちの子だった

 

「はい、お父さん!」

 

と、看護師さんから赤ん坊を渡され

おっかなびっくり抱っこする

 

小さい・・・

 

びっくりするぐらい小さく儚い・・・

 

「なな・・・お父さんだよ・・・」

 

と呼びかけると

彼女は小さくうなずいたような気がした・・・

 

その小さな命を恐る恐る真由美ちゃんの

胸の上に乗せる・・・

 

真由美ちゃんは憔悴しきったその体で

子どもと目を合わせる・・・

 

「ななちゃん、初めまして

待ってたよ・・・

生まれて来てくれて

ありがとうね・・・」

 

そのふにゃふにゃと頼りない

小さな体を見つめて

静かに涙を流した・・・

その横顔を見て

僕は素直に

美しいと感じた・・・

 

続く・・・

 

 

この記事を書いた人

shinyafd3s

現在、はぁもにぃ保育園で
広報を担当しています。
お休みの日を使って
カメラマン活動をしています

僕の使命は
その人の光っているところを
明確にしていくこと!

よろしくお願いいたします