幸せになるために 89

IMG_3137.JPGキャノンS90 なな2歳 自宅にて

 

夜が明けた・・・

 

グルグルと考えがまとまらないまま夜が明けた・・・

どうすればいいんだ・・・

とりあえず会社に出社する

世の中は今だ混乱していた

スーパーの棚から食品が消え

ガソリンは手に入らず

ガソリンスタンドの前には車の列が並んでいた

皆、自分さえよければ・・・

という思いしかなかった

 

とりあえず、お義父さんに現状を報告した

両親ともに避難所にいるということを・・・

 

「何でもっと早く言わないんだ!

うちは何屋なんだ?

とっとと迎えに行って来い!

住むところなんて腐るほどあるだろう!

困っている時はお互い様だろう?

何で助けてくださいって言わないんだ!」

 

涙が出るほど嬉しかった・・・

 

「ありがとうございます。

すぐに迎えに行きます!

車を貸して下さい」

 

父親にもう一度公衆電話から

連絡を入れる・・・

 

「あ、お父さん?

今から迎えに行くよ!」

 

「え?

どうするんだ?」

 

「真由美ちゃんのお父さんが

連れて来いって言ってくれたんだ!

すぐ行くから待ってて!」

 

お父さんは、東京に来ることを

渋るかと思ったが

 

「ありがとう・・・

困っていたんだ・・・

どうしようかって・・・

本当にありがとう・・・

待っているよ、気をつけて・・・」

 

こんなに弱気なお父さんを見るのは

初めてだった

いかにまずい状況かということが

そのことからも感じられた・・・

僕は会社のアルファードに乗りこみ

飛び出した・・・

 

車のガソリンを見ると残り1/4ほど・・・

とても福島まで行ける量ではなかった

ダメ元でいつも行っているガソリンスタンドに向かう

拍子抜けするぐらいすんなりスタンドに入る

 

「あの・・・

どのぐらいガソリン入れられます?」

 

と聞くと

 

「満タン大丈夫ですよ!」

 

と奇跡的な答えをもらった

信じられない気持ちで

 

「じゃあ、満タンでお願いします」

 

と言って満タンにしてもらった

奇跡だった・・・

 

この後、いつ入れられるかわからないので

極力低燃費走行をしようと

努力をした

アクセル開度をなるべく一定にし

ふかさないように注意した

信号にもなるべく止まらないよう調整し

エアコンも止めた

 

東北道、常磐道が使えないことは報道で知っていたので

国道6号か4号を北上するしかなかったのだが

6号は原発の近くを通るため

4号で郡山市から川俣町へ向かうルートを選択した

 

北へ行くにつれ

様相が変わってきた

寄るコンビニに品物はなく

ガソリンスタンドは軒並み大行列・・・

 

本当に、さっき給油できたのが信じられなかった・・・

道路は断続的に渋滞し

のろのろとしか進まなかった

何とか郡山市に入ったころには

日も暮れ、暗くなってきた

電気がまばらで町全体が暗かった・・・

ところどころの建物が崩れ

地震の大きさを物語っていた

 

途中、何度も道路が封鎖され

迂回を余儀なくされたが

何とか夜の11時ごろに川俣町に入ることが出来た

 

お父さんと連絡を取る

何度目かのコールでつながった

 

「着いたよ!

原発がやばいから一刻も早く

東京へ向かおう!」

 

と伝える

お父さんは一瞬息をのんだが

 

「わかった!」

 

と言った

 

「それと、お母さんたちも一緒に連れていくから!」

 

と言うと

 

「ああ、非常事態だからな

わかった」

 

と言った

両親は離婚している為

そこだけ心配だったのだが

了承してくれホッとした

 

「じゃあ、お母さん連れてくるから

ちょっと待ってて」

 

と言って電話を切った

お母さんは近くの中学校の体育館にいるはずだ

ナビを頼りに中学校へ向かう

中学校は暗かった・・・

不安になりながら体育館へ向かうと

お母さんたちがおばあちゃんと兄夫婦と一緒にいた

 

「信ちゃん!よく来たねぇ・・・

お母さん嬉しかったべよ」

 

「うん、みんな無事で良かった!

さあ、みんなで東京に避難しよう!

うちは不動産だから住むところは

何とかなるから!」

 

「ああ・・・ありがとうね・・・

さっきもみんなで話してたんだけど

私たちはここに残るわ・・・」

 

「え・・・」

 

「いくら、原発が事故起こしたっていったって

やっぱり、私たちは福島離れたくねぇーんだ・・・

おばあちゃんも福島から離れたく無いって言っているし・・・」

 

「そんな・・・みんなで行こうよ・・・

ねぇ、おばあちゃんもさ!」

 

「信ちゃん、あんがとな!

でも俺はここさ残る・・・

どうせ、もうすぐ死ぬんだから

俺は福島で死にてぇ・・・」

 

「な、おばあちゃんもそう言ってるし、

俺らはここに残るわ・・・

お母さんは、信ちゃんと行ったほうがいいと

思うから、お母さんだけ連れていって・・・」

 

「いや、だってこうしてる間にも

原発危ないよ・・・

3号機も爆発するかもしれないんだよ!」

 

「いや、そんときはそんときだ・・・

それでも、俺らは福島にいてぇんだ・・・

信ちゃん、気持ちはありがたくいただくわ・・・

来てくれてありがとうな・・・」

 

「そんな・・・」

 

もうこれ以上何も言えなかった・・・

福島に残りたいという気持ちが

痛いくらい伝わってきたからだ・・・

 

「わかった、じゃあお母さんだけ連れていくよ

みんな、元気でね。おばあちゃん、元気で!」

 

「ああ、信ちゃん、ありがとうなぁ・・・

ばあちゃん、長生きするで

また会おうなぁ・・・」

 

「うん・・・うん、必ずだよ・・・

元気で!」

 

後ろ髪引かれる思いで

その場を後にした

 

母親だけを車に乗せ

車を出す・・・

暗闇の中、みんなが送り出してくれた・・・

 

「信ちゃん、気をつけてなぁ・・・」

 

手を振るおばあちゃんたちは

すぐに暗闇に飲み込まれ見えなくなってしまった

 

本当にこれで良かったのか・・・

無理やりにでも連れていった方がよかったんじゃ・・・

最後まで心が葛藤していた・・・

 

父親のところまで戻ると

出るための準備は終わっていた

 

「車はどうするの?ガソリンは入ってる?」

 

「ああ、奇跡的に前の日に満タン入れてたんだ・・・

まだ3/4ぐらいあるから東京までは行けるんじゃないかな?」

 

「そう、良かった。じゃあおばあちゃんはこっちの車の

後ろをフラットにするから寝ていったらいいよ」

 

「うん、そうしよう

おばあちゃん、昨日から全然寝れてないんだ・・・

体育館じゃ、うるさくてダメだったんだよ」

 

アルファードの後席を倒し

布団を敷いて寝れるようにし

おばあちゃんを寝かせた

 

「さあ、東京へ向かおう!」

 

そのまま休むことなく

東京へ向かった・・・

 

続く・・・

 

 

この記事を書いた人

shinyafd3s

現在、はぁもにぃ保育園で
広報を担当しています。
お休みの日を使って
カメラマン活動をしています

僕の使命は
その人の光っているところを
明確にしていくこと!

よろしくお願いいたします